指先の攻防

カメムシが家に入ってきた。私の家は少々日当たりが悪く、観葉植物を外へ出して夕方には仕舞う、ということ週に何度かをやっているのだけれど、その折に鉢のどこかに付いてきたものらしい。

どうにか外に出してやろう。しかし素手で触って、カメムシ独特のあの匂いを出されたらたまらない。そこでティッシュやら箸やらをかの虫の前に差し出すのだけれど、これがうまくいかない。

虫というのは、目の前に何かしら差し出せば、スススッと登ってくるものではなかったかしら? 懲りずに何度も試すけれど、少しでも鼻先にブツが当たろうものならカメムシは、にじにじ、と何とももどかしい速度で後ろに下がる。虫というより、初めてのものに警戒する犬や猫のような仕草だった。

最終的にはカメムシの警戒心に敬意示して、私は性急な対処を諦めた。カメムシさまに乗っていただく──そんな気持ちでカメムシの前でティッシュをかまえ、じっと待つ。そうすると1分と経たぬうちに、カメムシはティッシュへと登ってきた。わしわし、と力強い足取りだった。

ティッシュごと窓の外へ移動させ、カメムシさまを壁に張りつかせてミッションは無事終了。予想外の押し問答には少しばかり辟易したけれど、最後まで匂いは出さないでくれた。なんとも頑固で気のいいカメムシだった。

今日は雨が降った。どこかで元気に羽を休めていればいいのだけれど。

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