【名古屋散歩】幻の愛知県博物館(愛知県美術館)

現在、愛知県美術館で開催中(~2023年8月27日まで)の『幻の愛知県博物館』展に行ってきた。

美術展ではないということで、一体どんな展覧会なんだ、あんま期待せんとこ、と思っていたのだけれど……

博物館があったのはなんと大須のど真ん中だというし、興味深い展示品が目白押し! 1時間半、思いっきり楽しめた。自分が住んでいる街のまったく知らない過去を見聞きすると、パラレルワールドに迷い込んだ気分になれて楽しい。

ではではさっそく、『幻の愛知県博物館』の見どころを3つに絞って紹介していくとしよう!

愛知県美術館へ、レッツゴー!

『幻の愛知県博物館』展

1. 大須に博物館があった!?

まず最初に、愛知県博物館の全体像をご覧あれ。

今回の展覧会では、拡大された資料の展示が多くあり、建物などの規模を体感しやすくなっていた。

図の下部にあるのが、博物館の出入り口である門だ。博物館とはいっても、ひとつの大きな建物があるのではなく、大小の建物が立ち並ぶ、かなり大きな施設だったようだ。

冒頭でもチラッと述べたけれど、この建物群が大須(現在の本町通と裏門前町通りの間)にあったというのだから驚く。

現在の大須(東仁王門通)
当時の大須(上)と、愛知県博物館・門前(下)

写真資料を見るとわかるのだけれど、かなり洒落たつくりの洋風建築だったらしい。

敷地内にあった重厚な建築物の数々(写真ぶれたー)

愛知県博物館は1878年(明治11年)に創立、その後県立化を経て、1910年には博物館から『商品陳列館』へと名を改めた。

商品陳列館という耳慣れない名前からもわかる通り、愛知県博物館は、現代の私達が『博物館』という言葉から連想する施設とは若干役割が異なる。

産業・商業振興を目的とする施設で、国内外の産業・商業にまつわる技術や物品が集められ、商談なども行われていたりしたのだとか。

展示の終盤にあった、陶土のサンプルを収めた棚。現在の博物館や美術館で一般的に見られる、ガラス張りの展示ケースは全く違った趣だ。

産業振興と聞くと無機質な印象をうけるけれど、木枠に縁取られたガラス張りの棚の中に、ズラリと展示物が並ぶ様子を映した写真には思わず見入った。見目よく、かつ嘘いつわりのない展示が奨励されていたというから、機能美の美しさもあるのだろう。

物語の中の一場面を思わせるような場所が、百数十年前とはいえ、自分と地続きな場所にあった。それを思うだけで心がふつふつと沸きたつ思いがするのは、私だけだろうか?

2. 絵巻物に、骨も!?知的好奇心をくすぐる展示物

続いて、展示物の数々をご覧いただこう。

展示コーナーに足を踏み入れてすぐのところに、それはあった。

名古屋城を下りた金鯱は全国の博覧会を周遊していた。

なんと鮮やかな!

明治5年に開かれた博覧会の様子を描いた木版画。甲殻類や鳥類、魚類、植物の標本などが並べられている。

白黒写真の影響からか、昭和以前の時代となると、色のない、静かな世界を想像してしまうのだけれど、物と人がひしめく会場には色が溢れている。音や熱気さえ感じられる画に、私は惹きこまれた。

『かつて名古屋にあった博物館のこと』と聞くと距離のへだたりを感じるけれど、上の二つの画によって、好奇心や知識欲――何かを見たい・知りたい・得たいという欲――は昔も今も変わらないのだ。

印刷技術が発展していなかった時代ならではの、情報のまとめ方・広め方が知れるのも面白い。実際の木肌を薄くスライスしたものを板材の標本としていたり、ギョッとするような細かさで綴られた文字列、写真とはまた違った写実性のあるイラストには思わず、ほぉー、と声を出して見入った。

その他にも、繭玉の品種改良の過程が知れたり、小動物の頭蓋や植物標本など、愛知県博物館に関する展示は多岐にわたっていた。

自然科学から最先端の技術にわたるまで、『商業・産業』というカテゴリーが、いかに多くの事物を包括しているかが体感としてわかる。愛知県博物館・商品陳列館はまさに『博物』の場であったのだ。

3. 愛知の魅力を再発見!もしも愛知県博物館が存続していたら…

展覧会の最後のコーナーでは『ものづくり愛知の力』と題して、愛知県の代表的な産業に注目していた。

まずは太古の文化をうかがい知ることのできる、朝日遺跡の出土品や複製品の数々。

朝日遺跡(現在の清州ジャンクションの真下に位置する)からは、東の縄文文化と、西の弥生文化が入り混じったデザインの土器が出土するそうだ。遺跡の周辺は遠浅の干潟であったと聞いたり、動物の骨で作られた縫い針を見ていると、朝日遺跡の当時の様子に俄然興味が湧いた。

今までは土器などを見ても『古いかどうか』という見方しかしてこなかったけれど、現代のさまざまな最先端技術の原点として眺めると、人間の底力みたいなものが感じられてくるから面白い。

お次は、ぐっと時代を下って、ドイツから輸入されたユニークな陶磁器たち。どれも昭和初期の作品らしいのだけれど、デザインがなんともキッチュ!

そして、ドイツの陶磁器を参考に作られたのが、上のタコとホウボウ。美しさはさることながら、生き物らしい重量を感じられるところが魅力的だ。見ずに濡れた感じが出ているのもいい。

上の瓶の中に収められているのは、焼き物の原料となる陶土の試料。

みなさん知ってましたか? 一万年前の名古屋の東一帯には、広大な沼地があったそうで、その沼の堆積物が瀬戸物とはじめとする焼き物の原料となっているのです。私は以前に本で読んだことのある知識が目の前に現れたことに大変興奮しました。実物って偉大だ。

最後は、奥三河の絹雲母(セリサイト)と呼ばれる鉱物。こちらなんとファンデーションの原材料!

大きく引きのばされた発掘現場の写真は、埃っぽい空気や湿った土の匂いまで感じられそうな臨場感。この写真と化粧の世界は似ても似つかない。白い石の塊とファンデーションが並ぶ展示ケースをしばらく眺めても、なかなか理解が追いつかなかった。

まとめ 私はまだまだ愛知を知らない

以上、『幻の愛知県博物館』展の見どころ三選でございました。

紹介したもの以外にも、写真資料を中心に絵画や物品目録、最後のコーナー『ものづくり愛知の力』でのミツカン酢に関する展示など、興味深い展示が盛りだくさんだった。

個人的には、『実物』のもつ力を強く感じた展覧会だった。これまで本で読んだり、映像で見聞きしたことのあった知識がめきめき補強されていき、最終的には、愛知県っておもしれー! と脳汁がどばどば出た。興味が薄かったり、手をつけにくい分野を深めるのに、展覧会ってうってつけだ。

「名古屋はなんにもない」って言うには、私はまだまだ愛知を知らなすぎる。色んな角度からものごとを見られるようになったら、人生もっと楽しいかも、なんて思う今日この頃です。

会期中、毎日絵柄の変わる来館記念カードは、陶磁器コーナーの蛸の置物でした。

本日のお隣本

  • 林上『名古屋の都市を読み解く』
    土地の成り立ちから都市の形成過程、産業の発展と都市との関係など、名古屋周辺についての知識を深めたい人にうってつけの一冊。陶土の元となった沼地の話もこちらで知りました! 図鑑のようなサイズの大判本・専門的な内容ながら文章が平易で、とても読みやすい!
  • 吉田友和『名古屋発半日旅』
    日帰りできる距離にある名古屋近辺のお出かけスポットを紹介している一冊。朝日遺跡のこともこれで読んでちょっと気になっていた。ハイキングやプチ登山から、楽器博物館なんていう珍スポットも載っている。愛知をはじめとする東海地方のことを気軽に楽しく知るきっかけに。
  • 三宅拓也『近代日本〈陳列所〉研究』
    今回展覧会にあわせて開催されていた講演にも参加したのだが、その講師の方が出版している本。当時全国各地に存在していた商品陳列館の実態を、多くの図版とともに解説しているそう。展覧会の内容をよりディープに知りたい方はこちらもどうぞ。
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