【春のホラー週間・3つ目】背筋『近畿地方のある場所について』

なんとなく始まった個人的ホラー週間は、小説投稿サイト・カクヨムに投稿されている小説、背筋『近畿地方のある場所について』で締めさせていただきます。

1冊目が怪奇現象ありの人怖、2冊目が人怖寄りの怪奇現象ときて、最後のこちらはザ・怪談! 都市伝説と言ってもいいかもしれないけれど、まあ、とにかく、通常ならざる法則によってもたらされる恐怖です。しかも「こういう理由があってこうなんだー」と説明がつかない系のストーリーライン。

この作品はTwitterで知りました。私が見かけた投稿では、どうやら怖い話らしい、という雰囲気が感じ取れるだけで内容には言及されてなかったのですが、サムネイルの中心に赤字ででかでかと『情報をお持ちの方はご連絡ください』とあるだけで、どうにもこうにも気になってしまって。

くー、作者の策略にまんまとハマっているー、という、よく分からない屈辱感を好奇心でえいやっ! と乗り越え、リンク先への作品ページへと飛び、始まったお話はというと……

関西地方のとある地域にまつわる怪奇現象を追っていた知人を探している、そのための情報を求めている、という体裁のモキュメンタリー。件の地域にまつわる妖しい話を取り上げたオカルト雑誌の記事や、その地域で起きた事件の概要など、その地域にまつわるあらゆる伝聞や考察、不可解な事象などが淡々と羅列されていきます。

記事のそれぞれに登場する怪談の内容は一貫しているようで、していない。話の道筋を立てられそうで、立てられない。話のピースが一つ、二つ足りない、奥歯に何かが引っかかったような不快感が、なんだか少しずつ恐ろしく思えてくる。

『雑誌の記事』という体裁が絶妙なのです。

雑誌に「〇〇という方は、こういう体験をしたそうです」という記事が書かれるためには、その◯◯という人物はその地域から生還しているからこそ可能となります。

おそらく『近畿地方のとある地方について』の主題に置かれている怪奇現象は、深く関わったら戻れない(=死ぬ)系なのですが、死んでしまっては雑誌の記者に話を聞かせることはできないため、怪奇現象について仔細に語れる人間が皆無なのです。

怪談でよくある「登場人物が全員死んじゃってるのに、なんでこの話が伝わってるの?」という矛盾を完璧に回避している。それゆえにリアリティがあり、フィクションだとわかっているのに、最後の最後で、ほんとだったらどうしよ……と、じわじわ肌が泡立ってくる。

あと、個人的に怖いポイントは、本作品の怪異側が発する言葉「お山にきませんか。かきもあります」。

この1節、小説を読んでる最中はサラッと目を通せていたのですが、最後まで読み終わったその日の夜、布団の中で思い出したのが「お山にきませんか。かきもあります」だった。

「お山にきませんか。かきもあります」

「お山にきませんか。かきもあります」

「お山にきませんか。かきもあります」

頭の中で、何度も繰り返される。日本語だ。意味も通る。私のイメージでは、声音も優しい。だのに、怖い。だんだん、どんどん怖くなる。──人が発する言葉とは思われないから。

だって、絶対、現代を生きる人間なら誘い文句に「かき」は使わない。

リンゴやブドウ、ミカンやモモがありますよ、と言うならのならたぶん怖くない。全然わかる。でも「かき」はない。田舎の人間でも、いや、田舎の人間だからこそ、通りすがりの人間を誘うのに、いの一番に「かき」は持ってこないだろう。

「かき」は人間誰しもにとって魅力的な果物だ、と思っているのは人間ではありえない。そう、私のなけなしの本能がアラートを鳴らすのです。

「これ嘘だよね……? こんな場所日本にないよね……? ね??」って思いながら、ぞわぞわ、ドキドキしたい人にオススメです。人の形してるのかそうじゃないのかはっきりしない怪異のディテールも素敵です(怖いです)。


というわけで、これにて春のホラー週間これにておしまいです。

ひとくちに「ホラー」と言っても、色んな怖さがありますね。人怖も好きではあるんですが、現実的な恐怖な分、エグ味が強いので、『近畿地方のある場所について』のような、ザ・怪談を挟みつつ、両方の成分をバランスよく摂取していきたい所存でございます。

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